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日本蛋白質構造データバンク(PDBj: Protein Data Bank Japan)は、JST-BIRDの支援を受け、米国RCSBおよび欧州EBIと協力して、生体高分子の立体構造データベースを国際的に統一化されたアーカイブとして運営するとともに、様々な解析ツールを提供しております。 今月の分子(Molecule of the Month)
このページはRCSBの David S. Goodsell博士による「Molecule of the Month」を日本語に訳したものです。
No.100〜アドレナリン受容体(Adrenergic Receptors)
:翻訳 工藤高裕 (PDBj)
我々の体には様々な防衛機構が備わっている。その一つである免疫機構は、体内をパトロールして、ウイルスや細菌に感染していないかを見回っている。また血液は、体が損傷を受けたことを察知すると血栓を作って損傷部位を塞ぐための分子で満ちている。神経機構は、危険な事態が起こった時に反射的に防御できるように全身に配線されている。これらの防御機構は、差し迫った危機によって驚いたりおびえたりした際、全身をかけめぐるエネルギーの流れを感じることで、多くの人がおそらく経験していることだろう。これは、「flight-or-fight(逃避か攻撃か)の応答」と呼ばれているものであり、我々の体は、さまざまな仕組みを使って、危機から脱出するか、留まって戦うか、どちらかの防御態勢をとろうとするのである。 反応の流れ小さな分子のホルモンである「アドレナリン」は「エピネフリン」とも呼ばれ、各細胞に対して危機に備えるよう伝える役割を担う。アドレナリンは腎臓のそばにある副腎から血液中へと分泌され、全身の細胞へと運ばれて、細胞の表面にあるアドレナリン受容体によって検知される。アドレナリン受容体がアドレナリンによって刺激されると、細胞内のG蛋白質に信号が伝達される。さらにG蛋白質から、他の様々な信号伝達酵素(アデニリルシクラーゼなど)に信号を伝わり、信号が増幅されて細胞全体に信号が広がる。なお、この一連の信号伝達に関わる構造を、以前の「今月の分子」(058:2004/10:G蛋白質)で紹介している。 攻撃の検知身体にアドレナリンが流れ込んだ時、すべてのエネルギーを迫り来る危険に集中させる。心拍数の上昇、血糖値の上昇などの防御機能を活性化する一方で、消化などの通常の生命維持活動は一時的に停止し、突撃に備える。この反応においては、アドレナリンに対し、細胞の種類によって異なる反応をする必要がある。心臓の細胞は活性化される必要があるが、消化器系の細胞はその活動を休止する必要がある。この種の受容体を統括するために、ヒトの細胞は少しずつ役割の異なる9種類のアドレナリン受容体を作り上げた。上図に示すのは、その中の一つであるβ2アドレナリン受容体(PDBエントリー2RH1)で、細胞を刺激してエネルギー生産と利用の増加を促す。一方他の型のアドレナリン受容体は阻害的に働き、エネルギーの利用を抑制する。このどちらかの型を発現させることにより、アドレナリンに対する反応を目的にあったものとなるようにして、危機に備えているのである。 どこにでもある受容体
※上図はPython Molecule Viewerで作成しました。 アドレナリン受容体は、G蛋白質結合受容体(G-protein-coupled receptor)と総称される互いに類似した大きな蛋白質グループの一員であり、GPCRと略記される。 GPCRはヒトの健康維持において、重要な役割を担っている。様々な種類があり、ヒトのゲノムには味覚や嗅覚に関する数百種の受容体も含めると1000種近くあるのではないかと推定されている。プロザック(Prozac)、クラリティン(Claritin)、ゾーロフト(Zoloft)などの広く利用されている多くの薬物は、これらのGPCRに結合して薬効を発揮している。ところがGPCRは膜の中に埋まっていることが多く、研究は非常に難しい。長年、このグループで構造が分かっているのはロドプシンだけであり、他の受容体に関する研究の多くはロドプシンを出発点として行われてきた。 GPCRグループの各受容体はどれも似ているため、そのやり方は有効な方法であった。各受容体は、蛇のように膜を行き来して7回膜を通過する1本の鎖からなるという共通の構造を持つ。そのため、これら受容体は曲がりくねった受容体(serpentine receptor)と呼ばれることもある。 ここに示したGPCRに属する2つの蛋白質〜アドレナリン受容体(PDBエントリー:2RH1)とロドプシン(PDBエントリー:1F88)の構造から、その曲がりくねった鎖の状態が確認できる。 構造をみる
※上図をクリックするとjmolによる対話的操作ができるページが表示されます。
アドレナリン受容体の構造を解明するために、普通の研究方法ではない新しい手法が必要であった。アドレナリン受容体は、通常、細胞膜に埋もれているため、純粋な形で結晶化するのは難しかった。そのため、2つのグループがそれぞれ異なる対処法を取った。一方は、PDBエントリー:2RH1(上図左)で報告されているもので、鎖の途中にリゾチームを挿入している。この融合蛋白質は通常通り折りたたまれ、リゾチームは受容体の下にぶらさがっている。もう一方の事例は、PDBエントリー:2R4R(上図右)で報告されているもので、受容体に結合する抗体を見いだし、受容体と抗体の複合体として結晶化されたものである。どちらの事例も、他の蛋白質が存在することで形成される蛋白質間相互作用によって結晶構造が安定化している。 ※この図はRasmolで作成しました。同様の図を作成するには、当PDBエントリーのRCSBサイト(2RH1、2R4R)にある、"Images and Visualization" の中の任意のオプションを選択して下さい。対話的操作のできるJmolバージョンもあります。また、PDBjのサイトにあるjVバージョン(2RH1、2R4R)でも対話的に構造を見ることができます。 アドレナリン受容体についてさらに知りたい方へ
以下の参考文献もご参照下さい。
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